電気容量計算ツール:NEC 220.82 の結果を契約アンペアに読み替える
延床面積と設備を入れると、必要な電気容量(VA)と主幹の定格(A)、幹線サイズまで出るツールです。計算根拠は米国の NEC(NFPA 70)第220.82条「戸建住宅の任意計算法」で、120/240V の単相3線式を前提にしています。日本の内線規程(JEAC 8001)や電気設備技術基準は参照していません。
日本もアメリカと同じくアンペアで契約するので一見そのまま使えそうに見えますが、**電圧が半分(単相100/200V 対 120/240V)**なので、同じ機器を並べても着地する数字がまったく違います。
NEC 220.82 の計算手順(ツールが実行している内容)
1. 一般負荷 = 空調床面積(ft²) x 3 VA/ft²
+ 小型機器回路数 x 1,500 VA + 洗濯回路 1,500 VA
2. 固定機器 = レンジ + 給湯 + 乾燥機 + 食洗機 + 電子レンジ + EV充電器 ... の銘板値の合計
3. 需要率 = 最初の 10,000 VA は 100%、残りは 40%
4. 空調 = 冷房と暖房の大きい方を 100%(同時使用しないため)
5. 総容量 = 需要率適用後の一般負荷 + 空調
6. 電流 = 総容量 / 240 V
参考になるのは 1 行目です。NEC の 3 VA/ft² は 32.3 VA/m² に相当し、内線規程が住宅の標準負荷として示す 30 VA/m² とほぼ同じ密度です。負荷密度の見立てそのものは日米でほとんど差がなく、差が出るのはこの後の機器の銘板値と電圧です。
日本の契約:アンペア契約と kVA 契約
単相3線式 100/200V が現在の標準です。東京・中部・東北・北陸・九州などの管内では 10A から 60A のアンペア契約、関西・中国・四国では最低料金制または kVA 契約になります。
| 契約 | 目安の容量 | 同時に使える電力 | 想定 |
|---|---|---|---|
| 20A | 約 2 kVA | 2,000 W | 単身・ワンルーム |
| 30A | 約 3 kVA | 3,000 W | 単身〜2人、ガス併用 |
| 40A | 約 4 kVA | 4,000 W | 3〜4人、ガス併用 |
| 50A | 約 5 kVA | 5,000 W | 4〜5人、エアコン複数台 |
| 60A | 約 6 kVA | 6,000 W | 従量電灯B の上限 |
| kVA 契約 | 6〜12 kVA | — | オール電化、EV、電気床暖房 |
| 参考:米国 100A / 240V | 24 kVA | 24,000 W | 米国の最小規模 |
| 参考:米国 200A / 240V | 48 kVA | 48,000 W | 米国の現行標準 |
**日本の 60A 契約(約 6 kVA)と米国の 200A サービス(48 kVA)では 8 倍の開きがあります。**60A を超えるとアンペア契約の範囲を出て kVA 契約に移り、オール電化住宅でも実務上は 8〜10 kVA に収まります。同じ「60A」「200A」という数字を並べても意味が通じないので、比較は必ず kVA に直してから行ってください。
機器の銘板値が違う
| 機器 | 日本の一般的な仕様 | 米国(ツールの既定値) |
|---|---|---|
| 調理機器 | IH クッキングヒーター 200V・4.8〜5.8 kW | 電気レンジ 240V・12 kW |
| 給湯 | エコキュート 200V・1.0〜1.5 kW | 電気温水器 4.5 kW、瞬間式は 18〜36 kW |
| 衣類乾燥 | ドラム式洗濯乾燥機 100V・1.2〜1.4 kW | 電気乾燥機 5 kW(NEC 最低 5,000 VA) |
| 冷暖房 | ルームエアコン 14 畳用 200V・1.2〜1.5 kW | セントラル空調 3 トン・4.5 kVA |
| EV 充電 | 普通充電 200V・15A = 3.0 kW | Level 2 32〜48A = 7.7〜11.5 kW |
| 食器洗い機 | ビルトイン 1.0〜1.3 kW | 1.2 kW |
**給湯と調理と EV で桁が違います。**エコキュートはヒートポンプなので電気温水器の 3 分の 1、EV の普通充電は北米 Level 2 の 3 分の 1 から 4 分の 1。日本の住宅が 6 kVA で回るのは機器の設計思想と電圧が違うからです。逆に、200V 30A の EV 充電器(6 kW)を入れると、それだけで 60A 契約の容量を食い尽くします。
算例:延床 110 m²(1,184 ft²)のオール電化住宅
内線規程の考え方で設備容量を積むと:
標準負荷 110 m² x 30 VA/m² = 3,300 VA
IHクッキングヒーター(200V 専用回路) = 5,800 VA
エコキュート(200V 専用回路) = 1,500 VA
食器洗い乾燥機 + 電子レンジ + 洗濯乾燥機 = 4,000 VA
エアコン 4 台 = 3,000 VA
EV普通充電(200V 15A) = 3,000 VA
設備容量の単純合計 = 20,600 VA(20.6 kVA)
需要率を考慮した契約容量(実務値) = 8〜10 kVA
**同じ住宅を NEC 220.82 で解くと:**一般照明 3,552 VA + 小型機器・洗濯 4,500 VA + 米国仕様の固定機器 36,220 VA = 44,272 VA。需要率適用後 23,709 VA に空調 5,000 VA を加えて 28.7 kVA、240V で約 120A。米国式に組めば 125〜150A サービスが要る規模の住宅が、日本では 8〜10 kVA で成立します。
差の理由は三つです。機器の銘板値が小さいこと、電圧が半分なので同じアンペア数でも半分の電力しか通らないこと、そして日本の契約容量は「同時に使わない」ことを前提にした需要契約で、足りなければアンペアブレーカーが落ちる運用を許容していること。米国の 200A サービスは「絶対に落ちない」前提で定格を積むので、安全率の置き方が違います。
電線・保護装置は日本の規格で選び直す
ツールは NEC 表310.12 の AWG(#2/0 Cu、#4/0 Al など)と接地線サイズ、電線管径を返しますが、**日本では使えません。**幹線・分岐回路の電線は内線規程の許容電流表に基づき、単線の呼び径(VVF 1.6 mm、2.0 mm)または断面積(CV 5.5 mm²、14 mm²、38 mm² など)で選定します。根拠法令は電気設備に関する技術基準を定める省令とその解釈です。
保護の考え方も違います。日本の住宅は分電盤に漏電遮断器(定格感度電流 30 mA、動作時間 0.1 秒以内)を 1 台入れて全体を守る構成が標準ですが、米国は NEC 210.8 の GFCI と 210.12 の AFCI をコンセント・回路単位で分散配置します。「分電盤に ELB が 1 個あるから GFCI 相当」という置き換えは成り立ちません。
よくある質問
契約アンペアはどうやって決めますか
同時に使う機器の消費電力を足して 100 で割ります。例えば IH 5,800 W をフル出力で使いながらエアコン 2 台(1,200 W)、電子レンジ 1,400 W、給湯 1,500 W を重ねると 9,900 W、つまり 99A 相当で 60A 契約では落ちます。実際には IH に総電力制限機能があり、エコキュートは深夜に動くので同時にはなりません。ガス併用なら 40〜50A、オール電化なら 8〜10 kVA が出発点で、そこから EV や電気床暖房の有無で調整します。
ブレーカーが落ちるのは契約が小さいからですか
落ちた場所で切り分けます。分電盤の一番左(アンペアブレーカー・電流制限器)なら契約容量不足なので契約変更で解決します。漏電遮断器なら地絡なので機器か配線の点検が必要です。個別の安全ブレーカー(分岐 20A)なら、その 1 回路に負荷を集めすぎているだけで、契約を上げても直りません。
200V の機器を入れたいのですが工事は必要ですか
単相3線式が引き込まれていれば、分電盤で 200V 専用回路を追加する工事だけで済みます。単相2線式 100V のままの古い住宅では、引込線と分電盤の交換を含む単三化工事が必要で、電力会社への申込みも伴います。IH、エコキュート、200V エアコン、EV 充電はいずれも 200V 専用回路が前提なので、リフォームでは最初に単三化されているかを確認してください。
ツールの推奨パネル容量(200A など)はどう読めばよいですか
**日本の分電盤の主幹定格として読まないでください。**200A は 240V 前提の値で、48 kVA に相当します。日本の住宅用分電盤の主幹は単相3線式の 30A から 100A で、100A でもおおむね 10 kVA です。ツールの出力を使うなら、アンペア値ではなく VA / kVA の総容量だけを取り出し、日本の機器銘板値に置き換えて積み直したうえで、契約容量と主幹定格は内線規程と電力会社の供給約款で決めてください。