積雪荷重計算ツール:ASCE 7 の結果を施行令第86条で読み直す
屋根に積もる雪の重さを求めるツールです。ただし**計算の中身は米国の ASCE/SEI 7-22 第7章と IBC §1608 で、日本の建築基準法施行令第86条ではありません。**両者は考え方の骨格からして違うので、ツールの数字をそのまま構造計算に持ち込むことはできません。ここでは ASCE 7 の手順を押さえたうえで、施行令第86条ではどう変わるかを対応させます。
ASCE 7 側の計算の流れ(ツールが実行している内容)
地上積雪荷重 pg(地域マップ値、単位 psf)
x 露出係数 Ce (吹きさらし 0.9 / 標準 1.0 / 遮蔽 1.2)
x 温度係数 Ct (暖房 1.0 / 無暖房 1.2 / 冷凍 1.3)
x 重要度係数 Is (倉庫 0.8 / 一般 1.0 / 学校 1.1 / 病院 1.2)
x 0.70 (地上から屋根への低減)
= 平屋根積雪荷重 pf
x 勾配低減係数 Cs(屋根材の滑りやすさと暖房条件で決まる)
= 勾配屋根積雪荷重 ps
設計値 = 最大(ps, 最小積雪荷重 pm)
屋根全体の荷重 = 設計値 x 屋根水平投影面積
施行令第86条ではどう計算するか
日本の積雪荷重は驚くほど短い式です。
積雪荷重 = 積雪の単位荷重 x 屋根の水平投影面積 x その地方における垂直積雪量
積雪の単位荷重 一般区域 積雪量 1 cm につき 20 N/m² 以上
多雪区域 特定行政庁が規則で定める(30 N/m² とする例が多い)
屋根形状係数 μb = 平方根(cos(1.5 x 勾配)) 勾配 60 度以下、雪止めがない場合
= 0 勾配 60 度超
ここが決定的な違いです。
- **地上から屋根への 0.7 低減がありません。**ASCE 7 は地上積雪荷重に 0.7 を掛けて屋根に載せますが、施行令第86条は特定行政庁が定めた垂直積雪量にそのまま単位荷重を掛けます。同程度の積雪深でも日本側の設計荷重は大きく出ます。
- **露出係数・温度係数・重要度係数に相当する係数がありません。**吹きさらしか遮蔽か、暖房しているかどうかで荷重を動かす仕組みは条文にありません。建物の重要度は荷重ではなく荷重組合せと許容応力度の側で処理されます。
- **多雪区域では雪が長期荷重になります。**令82条の荷重組合せで、多雪区域の長期は G + P + 0.7S、短期の暴風時・地震時にも 0.35S が入ります。米国の慣行では積雪は長期荷重に入りません。この 0.7S が、日本海側の建物の梁断面を決めているといっても過言ではありません。
- **吹きだまりの規定が条文にありません。**ASCE 7 §7.7 に相当する条文がないため、実務では日本建築学会の「建築物荷重指針・同解説」の不均等分布・吹きだまりの扱いを参照します。ツールの吹きだまり出力は ASCE 7 の式によるものです。
垂直積雪量から設計荷重へ
| 垂直積雪量 | 単位荷重 20 N/m²(一般区域) | 単位荷重 30 N/m²(多雪区域の例) |
|---|---|---|
| 30 cm | 0.60 kN/m²(12.5 psf) | — |
| 50 cm | 1.00 kN/m²(20.9 psf) | 1.50 kN/m²(31.3 psf) |
| 100 cm | 2.00 kN/m²(41.8 psf) | 3.00 kN/m²(62.7 psf) |
| 150 cm | 3.00 kN/m²(62.7 psf) | 4.50 kN/m²(94.0 psf) |
| 200 cm | 4.00 kN/m²(83.5 psf) | 6.00 kN/m²(125 psf) |
| 300 cm | 6.00 kN/m²(125 psf) | 9.00 kN/m²(188 psf) |
単位荷重の裏側にある雪の密度も読み取れます。20 N/m² は 1 cm あたりなので 2.0 kN/m³、つまり 200 kg/m³ 相当。多雪区域の 30 N/m² なら 300 kg/m³ 相当です。参考に ASCE 7 の雪密度式(pg = 35 psf のとき約 297 kg/m³)はほぼ多雪区域の値に一致し、一般区域の 200 kg/m³ は新雪寄りの想定だとわかります。
**垂直積雪量は必ず所管の特定行政庁の規則で確認してください。**目安として、太平洋側の平野部は 20〜40 cm、東京都区部は 30 cm 前後、日本海側の平野部は 100〜150 cm 級で多雪区域指定、内陸の豪雪地では 200〜400 cm に達します。多雪区域の指定は平成12年建設省告示第1455号の基準(垂直積雪量 1 m 以上、または積雪の初終間日数の平均が 30 日以上)に基づいて特定行政庁が行います。
算例:屋根水平投影 100 m²、垂直積雪量 100 cm、勾配 30 度
- 単位荷重:一般区域なので 20 N/m²(1 cm あたり)
- 積雪荷重(勾配考慮前):20 x 100 = 2,000 N/m² = 2.0 kN/m²(41.8 psf)
- 屋根形状係数:平方根(cos(1.5 x 30 度)) = 平方根(cos 45 度) = 0.841(雪止めなしの場合のみ)
- 設計積雪荷重:2.0 x 0.841 = 1.68 kN/m²(35.1 psf)
- 屋根全体:1.68 x 100 m² = 168 kN、約 17.1 tf(37,800 lb)
同じ現場を ASCE 7 で解くと、地上積雪荷重 35 psf 相当として pf = 0.7 x 35 = 24.5 psf = 1.17 kN/m²。勾配 30 度・アスファルトシングル(滑りにくい面)なら Cs = 1.0 のままなので 1.17 kN/m² です。施行令の 1.68 kN/m² に対して 3 割ほど小さいわけで、この差はほぼ 0.7 係数の有無から来ています。
雪止めをつけると低減が使えません
屋根形状係数による低減は、条文上「屋根に雪止めがある場合を除き」と書かれています。つまり**雪止めを設けた屋根では μb による減額が使えず、勾配 45 度でも 60 度でも垂直積雪量そのままの荷重を負担させることになります。**隣地への落雪を避けるために雪止めを付けた結果、構造側の荷重が 2 割以上増えるという設計判断がここで発生します。ASCE 7 の Cs は雪止めの有無ではなく屋根材の滑りやすさと暖房条件で決まるので、判断の分かれ目が根本的に違います。
多雪区域で雪下ろしの慣習がある地方では、令86条により垂直積雪量を 1 m まで減らして計算することが認められますが、その場合は出入口や主要な居室の見やすい場所に、雪下ろしを前提に設計してある旨の表示が義務づけられます。設計を軽くする代わりに、維持管理の義務が施主に移る仕組みです。
よくある質問
ツールの結果を確認申請の構造計算に使えますか
使えません。ツールは ASCE 7-22 と IBC §1608 の規定を実装しており、施行令第86条・令82条の荷重組合せ・特定行政庁の定める垂直積雪量・平成12年建告1455号のいずれも参照していません。**概算のオーダー確認と、海外案件や比較検討にとどめてください。**日本の物件では垂直積雪量を規則で確認し、単位荷重 20 N/m²(多雪区域は所管の値)で計算し直します。
積雪 1 m でどれくらいの重さになりますか
一般区域なら屋根 1 m² あたり 2.0 kN、約 204 kgf(41.8 psf)です。40 坪(132 m²)の平屋の屋根なら 264 kN、約 27 t が屋根に載ります。多雪区域の単位荷重 30 N/m² なら 40 t です。雪はしまるほど重くなるので、降雪深ではなく積雪深で測ることが重要です。
勾配を急にすれば荷重は下げられますか
条文どおり読めば、雪止めのない屋根なら勾配 60 度超で 0、45 度で係数 0.619、30 度で 0.841 まで下がります。ただし急勾配は落雪の危険と隣地トラブルを生み、多くの自治体が条例や指導で雪止めや屋根形状を制限しています。無落雪屋根(フラットルーフ+スノーダクト)を選ぶ地域が多いのは、荷重ではなく落雪処理の都合が優先されるからです。
太陽光パネルを載せる場合はどう考えますか
パネルの自重(一般に 0.15〜0.25 kN/m²)を積雪荷重に加算し、さらにパネル面の滑りやすさと架台による雪の引っかかりを考えます。パネル下端に雪がたまると局所的に垂直積雪量以上の荷重になるため、雪止めありと同様に μb の低減を使わない判断が安全側です。ツールにはパネル荷重の入力がないので、屋根荷重に別途足してください。